吸血鬼の箱庭
「なんで修ちゃんが…」
「凛!?なんで……」
修ちゃんは、目を見開いて、何度も「なんで?」と、呟いていた。
「ちょっとー!修!」
呆然と立ち尽くしている修ちゃんに仲間と思われる狼人間が駆け寄る。
ナイトがいる方向に目をやると、息を切らしながら顔を引きつらせている。
「なにボーッとしてんのよ。早く殺っちゃって!」
なんのためらいもなく、ローブのフードを脱いだ修ちゃんの仲間は、女の子だった。
頬が紅色で人形のように愛らしい。
だがやはり、尻尾と耳が生えている。
「凛…なんで…凛……」
「凛?こいつぅ?」
女の子は、修ちゃんの肩に手を置き、こちらをジッと見つめて来た。
「凛!!」
ナイトの声がする。
花村は倒した二人の狼人間を、ナイフで始末していた。
「あー!ちょっとぉー!うちのになにしてくれてんのよ!」
女の子が花村を指差してギャーギャー喚く。
「凛…もしかして…
吸血鬼になってもうたん……?」
場が凍りつく。
あの女の子だけ退屈そうに頬を膨らませている。
どう答えよう?
喉から声が湧き上がってこない。
俺は修ちゃんを助けるために…化け物になったのに。
「修……ちゃん……」
ポロっと涙が頬を伝う。
滲んだ視界の中で、今にも泣きそうな修ちゃんの顔が揺れる。
くしゃくしゃの顔で何度も頷く。
その瞬間、修ちゃんはその場に崩れ落ちた。
「なんで?……俺は…俺は…」
嗚呼、神様。
これで確定してしまった。
元の平凡な兄弟にはもう二度と戻れないと。