吸血鬼の箱庭
「修ちゃーん!行くでー!!」




「待って待って!
えーと…戸締りオッケー!」



修ちゃんが髪をセットしながら、バタバタと玄関にやってくる。



「前髪跳ねてるで?」



「知ってるから直してんの!」

踵が潰されたローファーをはきながら、玄関の扉を開ける。




少し甘酸っぱい、夏の匂いがした。

二人で横に並んで登校する。







修ちゃんとは、血の繋がってない兄弟で、親の再婚を機に、4歳の頃から一緒に暮らしていた。




だが、2年前、両親が離婚をして離れ離れになってしまった。





それから1年後、高校進学をきっかけに、俺は一人暮らしを始めることを決意した。



家を探して、色々と物件を漁っていた時に、修ちゃんから電話がかかってきた。


「もしもし?凛?久しぶり。
一人暮らし始めるんやってぇ?
よかったらさ、俺も一人暮らししてるんやけどうち来おへん?」



修ちゃんは、大阪の名門校に進学しており、その高校と、俺が行く高校はわずか2キロ離れた場所にあるのだ。




これは絶好のチャンスだと思い、親に住む家が見つかったとか適当に言って、修ちゃんの家に転がり込んだのだ。




実際、一緒に暮らして大正解だった。


ひとりぼっちで、つまらなかった実家暮らしより何倍も新鮮で楽しい。


修ちゃんも俺といて楽しんでいてくれているらしく、なに不自由ない快適な毎日をおくっていた。









「じゃあ、俺はこれで。
今日部活ないから一緒に帰ろ。」



「うん!後で連絡して。」



校門にはいって行く修ちゃんに、優しく手を振る。


「…ふぅ。」



踵をくるりと返して、学校へ向かう。



地味に俺はこの時間は一日の中で一番嫌いだ。


少し汗ばんでいき、頬に汗が伝う。



「あー…あっつい。」

足をズルズルひきづって、気怠そうに歩く。






『 ようこそ。花園へ。』






「へっ!?」


何処からともなく声がした。


優しい声で、よく耳に響いた。



暑さで頭がおかしくなったのだろうと思い、聞き流す。


『 柴田、凛____』






「……!?」



思わず足を止める。


だらりと冷や汗が噴き出す。



空耳ではない。



確かに聞こえる。



「な、なに…?」


すると頭上から花びらが降ってきた。



なんの花かは分からないが、甘い匂いがした。


それ以降、声は聞こえてこなかった。




「…なんやったんや…?」





俺は首を傾げながら、また歩き出した。
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