吸血鬼の箱庭
春とサン
「ん……?」
異常な寒さで、目が覚める。
体は芯まで冷え、指先の感覚がない。
目の前には、見たことのない天井。
「あ、起きたぁー!」
にゅっと視界に入ってきたのは、先ほどの少女だった。
「う…あ……」
掠れた俺の声がする。
「あー、喋るな。」
口を開くと、唇が乾燥して、パサパサしていることに気付いた。
「大体腹殴られただけで、倒れるとかどんだけ軟弱者なのよ。」
体に力が入らず、起き上がることさえも出来ない。
俺はこいつらに一体なにをされたのだろう?
「こんな軟弱者がメアの傍につくって考えると不安なんだけど。」
「そのうち鍛えてやるから大丈夫だ。」
勝手に話が進んでいって、俺だけ置いてけぼりな気がする。
だからと言って発言する気力もない。
「軟弱者!ここがとこかだけ教えてあげる。」
少女の甲高い声が耳に木霊し、少しうっとおしく感じる。
「ここは、私たちの“アジト”。地下にあるから少し寒いかもね。」
寒いってレベルじゃない。
もはや“痛い”だ。
「おい。“春”。服くらい着せてやれよ。凍え死んじまうぞ?」
先ほど俺の腹を殴ったオールバックの男が俺の顔を覗き込む。
「あ!忘れてた!」
どうやらさっきから口の悪いこの少女は“春”という名らしい。
春は俺に大きな毛布を雑に被せると、どこかへ行ってしまった。
毛布の温かさが、身に染みる。
今更気付いたのだが、どうやら俺は毛布をかけられるまで裸の状態だったらしい。
そもそもあいつらは一体何者だ?
いきなり俺を襲い、誘拐した。
人身売買でもやるのか?それとも俺の臓器を売りさばくのか?
イマイチやつらの目的が掴めず、頭が混乱する。
「悪いが薬を打たせてもらった。俺はサンだ。」
オールバックの男、もといサンは無愛想に自己紹介をしてきた。
「あ…う……」
「喋るなって。じき身体が動く。」
サンはそう言うと、俺が眠っているソファらしきものの近くにどかっと座り込んだ。
「…後10分の辛抱だ。」
その言葉が耳に入った途端、また意識が途絶えた。