吸血鬼の箱庭
「ほんまやん!!!」
さすがの凛も興奮したのか、手足をバタつかせ、嬉しそうに声を上げている。
「どうしよ?凛肩車してくれる!?」
「ええよええよ!乗って!!」
凛がすぐさま俺の目の前でしゃがみ込む。
俺はその背中に体を委ねる。
「いくで!せーのっ。」
そう言って凛が勢いよく立ち上がると、目標のカブトムシまであと15センチ程の距離になった。
「いけるー?」
「いけるー!」
ゆっくりとカブトムシのツノをつまむ。
ゴクリと息を飲んで、ツノをつまんでいない方の手で器用に虫かごのフタを開ける。
「よっしゃ……」
そう呟いた瞬間。
ジッジジッ___!
「あ!」
カブトムシは、その立派な翅をバタつかせながら、夏の空へ飛び立ってしまった。
「嘘やろぉ……」
ガクッと項垂れ、体の力が抜ける。
「修ちゃん逃がしたん!?」
「ごめぇん……」
ゆっくり凛の肩から降りると、しょんぼりとその場に座り込んだ。
「修ちゃーん!!」
凛が慌てた声で叫んだ。
顔をあげると、そこには冷や汗をかき、歯を食いしばっている凛の姿があった。
「なにやってんの?」
首を傾げると、凛は口だけで『あ、た、ま!』と言った。
凛の頭に目をやると、頭頂部に先ほどのカブトムシがとまっていた。
「わぁ……」
まさに奇跡だ。
感動しながらもう一度カブトムシのツノをつまむ。
大きく息を吸って、一気に虫かごの中に入れると、息を吐き出した。
「捕れたぁ!!」
虫かごの中を見ると、元気よくカブトムシが動き回っていた。
「よかったなぁ!」
凛が満足気に微笑むと、俺の頬に伝う汗を拭ってくれた。
「帰ろう?」
「おん!」
二人で手を繋いで家に帰る。
こんな日がずっと続くと思っていた。
今思えばこの時が一番幸せだったのかもしれない。
淡く、脆い、俺の宝物。