吸血鬼の箱庭
サンのその言葉を聞いた途端、春は口を尖らせ、くずりはじめた。
「とにかくこいつに今、己が置かれている状況を理解してもらうことが第一だ。また服でもなんでも買ってやるから。」
サンがペラペラと言葉を並べ、上手く春を丸め込む。
春はしばらく考え込むと、やがてこくん、と、頷いた。
すると勢い良く春が、着ていた真っ赤なコートを脱いだ。
「うわっ…さっむ…さすがに“この姿”じゃ寒いよねぇ……」
春はいそいそと、コートの中に着ていたワイシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外し始めた。
「えっ!!」
これは見てはいけないものだと思い、咄嗟に両手で顔を隠す。
「隠さなくても…大丈夫だぞ?」
サンが不思議そうに耳元で呟いてくる。
「……へ?でも…女の子やろ?」
そう言うと、サンはゆっくり口角を上げた。
「両手を外せ。」
「でも…」
「早く。」
その声で、ゆっくり、両手を膝に下ろす。
「えぇぇぇ!!!!」
目の前には服を脱ぎ、両手で肩を抱える春の姿があった。
寒そうに顔を顰め、口からは白い息を吐いている。
俺が仰天しているのはそこじゃない。
春の“上半身”だ。
あるはずの乳房がないのだ。