吸血鬼の箱庭
「“どこかの一族”?」
さすがにこれは引っかかった。
こいつら以外の化け物がこの世界にいるのか?
「また話す。春、余計なことを喋るな。」
「でも…」
サンにギロリと睨みつけられ、春が唇を噛み締めながら俯く。
「とりあえず、お前には俺らの主と契約を結んでもらう。」
サンがニヤリと笑い、懐からギラリと光るナイフを取り出す。
「主…?」
「ちょーっと口うるさいけどね。」
春が口を尖らせ、呟く。
サンは春の頬をつねると、部屋から出て行った。
しばらくの沈黙が走る。
「……こんな理不尽なやり方、間違ってるって分かってるんだけど…」
春が爪をかじりながら、追い詰めたような表情を浮かべながら俺に対して言ってくる。
「サンだってわかってるはず……でも!メアの言うことは絶対…この一族の最大のルールなの。」
「“メア”って…さっきサンが言ってた“主”のこと?」
春がゆっくり頷く。
先ほどの傲慢な態度の春の姿は微塵もなく、これから起ころうとしている事態に怯えているようだった。
「怖いん?」
「んなわけないでしょ!あんたを心配してやってるだけ!」
春が俺の頬をつねると、キッとその鷲色の瞳で睨みつけてきた。
「これも一族が勝つ為なの。我慢して。
……修。」
春が俺から顔を背けながら呟いた。
その時、不覚にも“下の名で呼ばれた”感動が押し寄せてきて、口元が緩みそうになった。
ごほん、と咳払いをし、努めて冷静に答える。
「あぁ、なんとかやってみるわ。」
本当はなんとかやっていける気なんて微塵もしない。
このよくわからない状況に置かれた俺はどうすればいいのだろう?
素直に仲間になって、言われた事に従順に従っていれば、家に帰れるのだろうか。
頭の中で張り巡らされた疑問に、一つ一つ自分なりの答えを見つけ、納得する事に、今は必死だった。