吸血鬼の箱庭
修ちゃんがいなくなって、ポツンと俺は道路の真ん中に立たされていた。
夕焼け空がやけに綺麗で、陽炎がユラユラ揺れている。
自分だけ、別の世界に取り残されたような感覚だ。
「…なんやったんやろう。」
今の数分のやり取りで俺と修ちゃんの人生が大きく変わった気がした。
しばらく放心状態になっていると、
『柴田凛。
目の前にいるコウモリについて来て下さい。』
今日の朝、聞いた声だ。
声の主を探すが案の定見つからず、言われたコウモリを探した。
第一日が出ている時間にコウモリなどいるのだろうか。
「えぇ…」
思わず目を見開く。
桜の木かなにかの並木道の一本の木に、大きなコウモリがとまっていた。
「こいつのこと?」
少ししゃがんでコウモリと視線を合わせる。
コウモリは首を傾げると、ばさばさと翼を広げた。
そして木から離れ、飛び立った。
「わ…ちょっ…」
飛ぶスピードが尋常じゃない程速いので、慌てて走り出す。
並木道を抜けたら見えるコンビニの前の横断歩道を渡り、大通りを抜ける。
入り組んだ、複雑な住宅街に駆け込み、とある公園で足を止める。
「あ、この公園。」
小さなブランコにボロボロの木材のシーソー。
ミンミンゼミが容赦なく鳴いている。
干からびた象の噴水が最も印象的だ。
「よく修ちゃんと遊んでた…」
両親が離婚する前の幼かった頃、よく修ちゃんとここで遊んでいたのだ。
そんな懐かしい思い出に浸っていると、コウモリが頭を突っついてきた。
「いたっ!」
コウモリは公園の奥の、森のような場所へ行ってしまった。
「ちょっと…!!」
肩にかけていたバッグをリュックサックのようにして背負い、走り出す。
様々な木々が入り組んだ森は蒸し暑く、蝉の鳴き声が鬱陶しい。
コウモリは器用に木々をかわし、森から抜け出した。
俺もなんとか森から抜け出すと、そこには小さな草原のような空間があり、中央には大きな穴があった。
「…なんこれ。」
ゆっくりと足を踏み出して穴の奥を覗き込む。
直径5メートル程の穴は、底が見えず真っ暗だった。
穴の中からは冷たい風が出ており、少し悪寒がした。
気味が悪い。
そう思っていると、コウモリが穴の中へ入ってしまった。
「えぇ!!?」
"ここに落ちろ"とでも?
無理に決まっている。
骨を折って、即死だ。
クルリと踵を返して帰宅しようとしたその時。
「逃げちゃ駄目ですよ。」
突如目の前に青年が現れた。
ドンッ!!
「はっ…?」
それと同時に俺の重心は後ろへいき、穴へ落下しはじめた。