吸血鬼の箱庭
「ふぁ…」

「あ、おはようございます。」



花園の奥にある古い小屋で、二人の青年は暮らしている。


ナイトは眠そうに大きな欠伸をすると、青年からコーヒーカップを受け取った。

「今何時だ?」


「17時52分ですね。」




小屋にはほろ苦いコーヒーの薫りが充満した。



2人用のベッドと、大きなテーブル、キッチン、トイレ。


必要最低限の物しか置かれていない部屋は飾り付けも全くされていなく、殺風景だった。


ナイトはコーヒーを一気に飲み干すと、青年の前に乱暴にカップを置いた。


「あー。うま。」

「もっと上品な飲み方して下さいよ…」



青年が呆れたように呟く。



「んなこたぁいいんだよ。」


ナイトが満足気に微笑みながら言う。

「その口癖も直した方がいいですよ?」



青年が口を尖らせながら呟く。

「うるせぇなぁ。


お前“あれ”呼んだか?」



「えぇ。勿論です。」


青年が不敵に微笑む。


「じきにあのコスモスの畑から出て来ますよ。」

青年が外の花園に目をやる。




その言葉を聞いた途端、ナイトは仰天したように目を見開いた。



「まさかお前っ…突き落としたのか!?」


青年はキョトンとして、ゆっくり頷いた。


「だって、中々穴の中へ入ろうとしないですもん。」




ナイトは頭を抱え、ため息を吐くと、小屋を出てコスモスの畑へ向かった。




まだ少し日が残っており、思わず顔を顰める。



ザクザクと、雑草を踏み分け、小屋から一番遠いコスモスの畑へ辿り着く。




コスモスは、静かに、美しく咲き乱れていた。


「…なんだ。まだ来てねぇじゃねぇか。」

ポケットから煙草を出し、咥える。

ライターで火をつけ、しばらく吹かす。


夏の虫たちの大合唱を聞き流しながら、“あれ”が来るのを待つ。


「ちょっと!ナイト!いきなり出て行かないで下さいよ!!」


後から慌てて青年が追いついて来た。


「ほんとに突き落としたんだろうなぁ?」

「落としましたよ!叫びまくってましたよ!」

青年が煙草の煙に顔を顰めながらも必死に答える。


「まぁ、いい。」


それだけ言うと、ナイトは黙り込んだ。
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