花言葉を君に。
最終章 カエデとシオン
「美智さん、尚紀さん。今まで妹を大切に育てていただき、本当にありがとうございました。」
春━━━━あたしの家に来た楓にぃには、ふたりの前で土下座した。
「あ、頭を上げてちょうだい。」
「そうだ、当たり前のことをしただけだからな。なぁ、美智。」
美智さんも、尚紀さんも、戸惑ってる。
正直あたしだって、戸惑ってるもの。
「この春、卒業して就職したので、紫苑を迎えにきました。」
家に入るなり、いきなりそう言った楓にぃには、真剣だった。
「そ、そうなの?紫苑ちゃん出てっちゃうの?」
美智さんが涙目になって、あたしに問いかけた。
いや、あたしだって今初めて聞いたんですけど!?
その次に楓にぃには、土下座をした。
「美智さん。尚紀さん。━━━━」
結局、あたしは家を出なかった。
約束どおり迎えにきてくれた、楓にぃにには悪いけど。
あたしは結婚するまでふたりの娘だから。
楓にぃには1週間に3日、泊まりに来ることになった。
未だに時々、結城先輩って呼んだり、敬語を使ったりしちゃうけれど。
離れていた12年分の時間をやり直して、兄妹をイチから始めている。
「楓にぃに。大好きだよ。」
「うん。俺もだよ、紫苑。」
この初恋が叶うことは、もう二度とないけれど、それでいい。
恋なんかよりも、もっと大切なことに気づけたから。