花言葉を君に。
鞄を教室に置いて、校舎裏の小さな庭に行く。
そこはあたしの唯一の心のオアシスであり、たったひとつの居場所だった。
園芸部が一昨年廃部になり、誰も世話をしなくなった可哀想な花たち。
あたしが入学してからは、少しずつだけど前の姿を取り戻してきたはずだ。
パンジー、マーガレット、バーベナ、トレニア、ペチュニアは既に開花を迎えていたはず。
残るはゼラニウムだけ。
今日こそは咲いてますように、と願いながら花壇へ向かう。
花壇まで残り30mくらいまで近づいたとき、人影が見えた。
それはまさに今、あたしが向かおうとしていた花壇の前でしゃがみこんでいる。
まさか、荒らし?
そーっと近づいてみると、それは男性でうちの学校の制服を着ていた。
恐る恐る声をかける。
「あのっ…」
振り向いた男性は、紺縁メガネの奥の瞳を大きく動かして、声をあげた。
「君が?」
唐突の質問に、質問返しをしてしまう。
「え?」
「君がこの子たちを世話してるの?」
この子たちとは、眼下に広がる花たちのことだろうか?
「はい。まだまだですけどね、3ヶ月ちょっとなんで。」
「そうか…。」
男性はそう呟いてあたしを見て、にっこりと微笑んだ。