花言葉を君に。
「よかった…。朝からずっとユウキ先輩に言いたかったんですけど、どうすればいいのかわからなくて…。」
「あ、確かに。じゃケータイ出して。」
言われるがままにケータイを出すと、ユウキ先輩と番号を交換することになった。
あっさりと交換したけれど、正直驚いてて。
あたしのケータイに入った番号は、ユウキ先輩が初めての家族以外の番号。
「ありがとうございます。ユウキ先輩っと。」
「ん~。」
画面を睨んでた先輩がパッと顔を上げて、笑った。
「黒澤ってさ、名前何?」
え。
名前って、下の名前?
クラスメイトにさえ呼ばれたことのない下の名前?
「し、しおんです。」
「漢字は?」
「紫に草冠の苑…鹿苑寺の苑です。」
黙ってあたしの名前を登録したあとに、今までよりも優しく微笑んだ。
「シオンの花言葉は“追憶”“思い出”…。素敵な花だよね。シオンは歴史ある花だし、秋に咲く薄紫の小さな花を見るだけで落ち着くよね。好きだよ。」
不覚にもドキッとしてしまった。
違う。ユウキ先輩はシオンの花を好きって言っただけで、あたしのことどうこうとは一言も言ってない!
自分に言い聞かせるようにすると、
「黒澤 紫苑…素敵な名前だね。」
また一段と優しい微笑みが返ってきて、あたしを苦しくさせた。