花言葉を君に。


「紫苑ちゃん…でいい?」


「は、はいっ。」


「改めて、よろしく。」


「はい。」


また差し出された右手を握り返す。


「じゃあね。」


あたしは深々と礼をして、ユウキ先輩を見送った。


…きっとこの学校で、最初で最後の友達と呼べる存在になるかもしれない。


信じてもいいかもしれない。


まだ右手に少しだけ熱が残ってる。


その手を左手で包み、胸の前で強く握って深呼吸をする。


ユウキ先輩。


「素敵な名前だね」と言った声が、耳から離れない。


常に絶やすことのない優しい笑顔が、頭の中から離れない。


ユウキ先輩に会えたこと、ゼラニウムのおかげだよね?


放課後にちゃんとお礼をしよう、と決めた。


それでも授業に集中できなくて、反芻するのはユウキ先輩の言葉。


素敵だね、と言われたことで、自分の名前に誇りが持てる。


そうすると必然的に思い出すのは、ママと楓にぃにのこと。


ママがつけてくれたこの名前が、ユウキ先輩に褒められたんだって思うと、「ありがとう」と伝えたくなるけれど。


…それが叶わない願いなのが、悔しくて悲しくてどうしようもできなかった。


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