花言葉を君に。


「紫苑。」


誰かがあたしを呼んでる。


ううん。


もう誰かじゃない。


きっと楓にぃに。・・・つまりは和泉先輩。


そんな気がしてた。


ずっと、探してた。


でも、やっぱり届かないの。


霧の中で、楓にぃにがあたしを呼ぶ。手を差し延べている。


・・・あたしも手を伸ばすけれど、届かない。


あと、もう少し。もう少しなのに、不意に楓にぃにが消えてしまう。


真っ暗な闇。


まるで夜霧の中にいるみたい。あたしはひとり。


楓にぃにの名前を叫ぶ。返事はない。


美智さんと尚紀さんの名前も呼ぶけど、返事はない。


・・・あぁ。


あたしはひとりなんだ。


やっぱりひとり。どれだけ頑張ったって、所詮ひとり。


もう、いいんだ。


このままひとりでいたって、なにもいいことはない。


それなら、誰にも気づかれずに死んでもいい。


「・・・紫苑。」


最後に誰かに名前を呼ばれた。


その声は、聴き慣れたあの人の声だった。






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