ファンには聞かせない
新しい恋は、息継ぎができる。
前は息が詰まるようなものだった。

側にいて安心が感じられる、そんな当たり前の恋の幸せが嬉しい。
一緒に街に出掛けることがウキウキすることが、楽しくて仕方がない。
テレビを一緒に見ることが何でもないことが、当たり前なことに驚いて笑ってしまう。

だから、彼氏がテレビをつけたことには何の疑問にならなかった。
わたしもその痛みを忘れていたから。

「おっ、コイツら売れているなぁ。全国で生放送コンサートなんて」
「誰がぁ~、あっ…」

液晶の中で彼はソロを歌っていた。
しっとりしたバラード、彼はあまり好きではないと言ってたはずなのに。
メロディーに乗せて紡がれる、謝罪の言葉。
液晶の中からまっすぐ向けられる視線は、わたしに向いているんじゃないかと思うほど迫力があった。

ごめんね。
僕は君を幸せにできないのが悔しい。
でも、僕ほど君の幸せを願う人は世界の何処にもいないから。
ごめんね。

「えっ、おいっ、どうしたんだよ?」
焦る彼氏の声にようやくわたしは流した涙に気付き、
それがきっかけのようにもっともっと泣けてしまった。

1年越しの謝罪は、わたししか知らないのだから。
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