最後の恋―番外編―
「美月?」
名前を呼ばれてハッとする。
そうだ、ついうっかり脱線してしまったけれど、結局のところ私はいつ“何でも言うことを聞く”なんて言ったのか覚えていない。
「……ごめん、覚えてない」
素直に謝ったのに、学は目に見えて不機嫌になった。
不機嫌さを隠そうともせずに、至近距離で眉間にしわを寄せている学は怖いと言うよりは、やっぱり可愛いく思える。でもそんな顔されても、覚えていないものは覚えていない。
「誠人の仕事教えるとき、約束しただろう?」
ふてくされたようなその言葉で、私はやっと思い出した。
っていうか、宮田さんのところに行ったのは、私の記憶が正しければ3か月も前のことだ。
こんな寝起きに突然言われても、思い出せない私に非はないはず。……でも、あえてそれは言わずに素直にもう一度謝った。
「だから、今日一日俺の言うことなんでも聞いてね」
さっきの不機嫌顔が幻じゃないかと疑うほどに、にっこりとご機嫌な顔で言われて眠気が吹き飛んだ。