最後の恋―番外編―
「着替えた?」
「……着替えた、けど」
寝室の向こうに続くリビングから学の声が聞こえて、扉から顔だけを出してそう答えた。
可愛いけれど着慣れない格好が恥ずかしかったから顔だけ出したのに、学はそんな私の気持ちもお構いなしに扉を全開にしてしまう。
目の前にいる学から逃げられるはずもなく、簡単にその視線に捕まってしまった。
上から下に視線が移って、また下から上に上がった学の目とばっちり視線が合う。
「……どう?」
恐る恐る学に感想を尋ねると、とろけるほどの甘く微笑んだ学は、「すごく似合う」という嬉しい言葉とともに触れるだけのキスをした。
こういう何でもないキスにさえ、いまだにときめいてしまう私を、「おいで、髪やってあげる」とソファへと引っ張っていく学。
学は不器用な私と違って、かなり器用だ。
私以上に凝った髪型を作るのが上手い学は、私の買っている雑誌を見てヘアアレンジのレパートリーを着々と増やしている。そうやって覚えたものを駆使して、出かける前に私の髪をいじるのが、学は結構楽しいらしい。
その出来栄えは自分でやったものと比べることが空しくなるくらい完璧だから、私は遠慮なく学に髪をやってもらう。
こういう時に自分の不器用さが浮き彫りになって、なんだかとってもやるせないけれど。好きな人に髪を触られているこの時間は、結構好きだったりする。