最後の恋―番外編―
乗りなれた学の車に乗り込む。この車の助手席はもう、あたしの指定席と化している。
相変わらずBGMのない車内は車のエンジン音とウインカーの音、ハンドルを回す時に手に擦れる音しかしない。
いつもなら会話があるんだけれど、私は今からどこに行って何をするのか気になって仕方ないし、学は学で楽しそうに笑みを浮かべているだけだった。
それに学と二人きりの空間で会話がなくても、全然苦じゃない。初デートの時に必死になって話題を探していた自分が懐かしい。
あの時の私は天気のことを言おうとしていた。今急に天気の話をし出したら、学はどんな反応をするかな。
そんなことをつらつらと考えていたら、ついうとうとしてしまったらしい。
気づいた時には窓の向こうを、見慣れない景色が流れていた。
寝ていたのはほんの数分だったはずだし、あまり遠くまで来ていることはないと思うけれど、ちょうど見えた標識には隣の県名が書かれていた。
普段電車で移動しているし、近所くらいしか行かない私には、隣の県の道なんてさっぱりわからないのが当たり前けれど。
この県には特に、有名な百貨店もアウトレットも観光地もなかったはずだ。いったい何をしにここまで来たんだろう。
やっととれた休みに、こんなに運転してまで行きたいところってどこなんだろう。全然見当がつかない。
付き合ってから分かったことだけれど、学のいる部署は特に海外への出張が多いらしい。お姉ちゃんも出張に行くことはあるけれど、学ほど頻繁じゃない。
出張がないときは、お姉ちゃんがいるようなデスクワークが部署と同じように、実力主義で、仕事が終われば早く帰っていいけれど、終わらなければ終わるまでやって帰ることになる。あまり定時というものが決められていないみたいだ。