最後の恋―番外編―


「美月?」


玄関の扉の前で立ち尽くす私に、すでに玄関の中に入って扉をおさえている学が不思議そうに声をかける。


「……っ」


情けないくらいに緊張で足が震えている。

私はお姉ちゃんじゃないし、お姉ちゃんに学の彼女の座を明け渡すつもりもない。

だったらありったけの勇気を振り絞って、学の家族に会わなきゃいけないって分かっているのに。


こういう風に相手の家族に会うことなんて今までなかったうえに、自分に自信がない分緊張も不安も半端ない。


「急に俺の実家に連れてこられたから、怒ってる?」


的外れな問いに顔を上げれば、学は怒られて耳を垂れている大型犬のようにシュンとしていた。

その問いに首をゆるゆると振って、「緊張してるの」と訂正する。


「お手伝いさんっていっぱいいるの? 家の廊下にずらーって並んで“おかえりなさいませお坊ちゃま”とか声揃えて言っちゃったりするの?」


緊張を紛らわせるために、全く関係ないけど少し気になっていたことを聞いてみれば、学は「いないよ。ドラマじゃあるまいし」とあっさり否定する。
だけど、私にとっては勝手に門があくのも、車をお手伝いさんが運んでくれるのも、ドラマや漫画の中の世界の中の出来事だった。


「お手伝いさんって言っても、さっきみたいに車を移動してくれて訪問する人を出迎えくれる人が一人と、掃除をしてくれる人の合わせて二人だけだし。 あとはたまに庭の手入れをするときに庭師を呼んだりするくらいかな」


と、私のくだらない質問にもちゃんと答えてくれる、どこまでも優しい学。

きっと、私がなんとか緊張をほぐそうと、こんなことを聞いているって気づいてくれているんだ。

なんて言ったって学は“美月マスター”だから。
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