最後の恋―番外編―
白い大理石のような滑らかな石造りの玄関に靴を揃えて脱いぐ。学と私以外誰もいないそこで「お邪魔します」と言いながら、毛の長い茶色の絨毯に恐々と足を乗せた。
そんな借りてきた猫状態の私に、「どうぞ」と言いながら手を握ってきた学は、私の手をひきながら長い廊下を歩いていく。
廊下は両手を広げても届かないくらい幅があって、なのに全面に絨毯が敷いてある。
この廊下専用にこの絨毯をあつらえたに違いない。
これで甲冑とかが飾ってあったら、映画とかに出てくる西洋のお屋敷そのまんまだ。
でも、この家の廊下には甲冑も彫刻も壺も見当たらない。飾ってあるのは小さな写真立てとか学たちが小さいころ書いたであろう絵だったりと、まるで普通の家と変わらないようなごくごくありふれた普通のものだった。
そんなところに親近感を覚えて、少しだけほっとする。
……けれど、やっぱり一般家庭とは大きくかけ離れたこのお屋敷に萎縮しているのは事実で、こうやって学が手をひいて歩いてくれていなければ、私はずっと玄関から動けなかっただろう。
こうやって私を導いてくれる、学の大きな手が、大好きだ。
「出迎えもしてくれないなんて薄情だな」
その言葉が聞こえて顔を上げると、学は扉を開けて部屋の中に入って行くところだった。
学が入って行くということは手をひかれている私ももちろん中に入るっていうことで。
しかも学が話しかけたということはその相手がこの部屋にいるっていうことで。
……ってことはその相手ってご両親ってことでしょう!?
待って、私まだ心の準備ができてないんですけど……!!