最後の恋―番外編―


焦る私をしりめに、学はそのまま部屋の中央へと私を引っ張った。

学の大きな背中で誰がいるのかが見えないけれど、でもいる。


「学! まだ予定の時間より早いじゃない! 準備できてないのに!」


そう言ったのは、きっと学のお母さんだろう。

っていうか、もう何もかもがいっぱいいっぱいで、顔を上げることすらできないでいる私は、フローリングの木目を意味もなく見つめる。

小さな木目のうずを5個目まで数えて、ふと気づく。

こうやって下を向いてるって、とんでもなく失礼なことしてるよ、私!

ここは自分に自信がなくても、学の彼女として認めて貰えるように、こわくても顔を上げて、しっかりと向き合うべきところでしょう!?


自分を叱咤して、ぐっと顔を上げれば、すぐ目の前に綺麗な女の人の顔があった。

目の前っていうか、ほんの少し動いたらキスできちゃうくらいの至近距離。頭を上げたときに顎にぶつからなかったのが、奇跡に思えるくらい近かった。

思わず声を出しそうになったけど、それを頑張って堪えて飲み込んだ。そして、今できる精一杯の笑みを浮かべて自己紹介をする。


「は、はじめまして、三浦、美月です。 学さんとお付き合い、させていただいてます」


すんなりとよどみなく言うことは出来なかった。
でも、緊張している割には声も震えなかったし、ちゃんとした自己紹介ができたと思う。

内心ほっとしていると、目の前の長いまつげに覆われた大きな瞳がにっこりと弧を描いた。
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