最後の恋―番外編―

でもそんなカッコイイ学のお父さんの言葉でも、お母さんは腕を緩める気配はない。


「あの、おかあさ……」

「あ、ダメよダメ。 私のことは志保さんってよんでね。ホントは志保ちゃんって呼んでもらいたかったんだけど、覚がそれは無理だっていうから。 ほら、言ってみて?志保さんって」

「し、し、しほ……さん」


促されるままなんとか呼べば、満足そうにうんうんと頷いて、「なあに?」とやっと聞く耳を持ってくれた。


「あの、ちょっと苦しいので緩めてもらえると……」

「あら、ごめんね。 嬉しさのあまりに力入りすぎちゃた」


力というよりは、胸で窒息しそうで苦しかったんです、とはさすがに言えなかった。


「今日は遠いところわざわざ来てくれてありがとう。 ……というより拉致されてきたんだっけ、美月ちゃん」

「あ、いえ、はい……」

志保さんが一気に言った言葉に答えようとして、なんだかよく分からない答えになってしまう。


「この学に瓜二つな人が私の旦那様で学のお父さんの覚。 覚のことも覚さんって呼ばないと、またぎゅーってしちゃうわよ」


由指をばらばらに動かして、じわじわと近づいてきながら志保さんが言う。まるで子供に“くすぐっちゃうぞー”と言いながら迫ってくるかのような、志保さんを見ていて、ふと気づく。

もしかして、これって志保さんの優しさじゃない?
緊張していた私に、この場に慣れさせるためにハグしてくれた?

“学のお父さんとお母さんだから”と私が壁を作る前に、名前を呼ばせることで距離を縮めてくれたんじゃないの?


……学のさりげない優しさのルーツを垣間見た気がした。
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