最後の恋―番外編―


ホント、この空気ってひたすら私だけが恥ずかしい。


もう顔上げられないんですけど……。



「美月ちゃん」


やわらかな、でも芯の通った声で名前を呼ばれておずおずと顔を上げると、志保さんがソファーとテーブルの間に膝をついて、私をしたから見上げていた。

すっと私に向けて伸ばされた華奢な両手で、ふわりと優しく膝の上で重ねた手を包み込まれる。そして愛しいものを見つめるような微笑みとともに、




「学を、お願いしますね」



……そう、言われた。




それは、とても重くて大切なものを貰ったような、そんな感覚で。

別に今すぐ結婚をするわけでもないし、ましてやプロポーズなんてされてもいないのだけれど、それでも志保さんと覚さんに認めて貰えたようで、とてもとても幸せを感じる素敵な言葉だった。

自分の意志とは関係なく、勝手に涙がぽろぽろあふれ出す。

それでも震える声で「ずっと大切に、全力であいしていきます」と答えれば、お母さんは嬉しそうに笑って私を力強く抱きしめてくれた。
ソファーに座りながら私たちを見ていた覚さんも「お願いします」とやさしい微笑みをこぼした。

ちらり、学の方に視線を向けると、呆けたように私たちの方を凝視して固まっていた。零れ落ちる涙もそのままに精一杯笑顔を浮かべると、学はくしゃくしゃに破顔して私に抱きつく志保さんごとぎゅっと抱きしめてくれた。



なんだかとても幸せだ。

今まで感じていた幸せが、何倍にもふくれあがった気がした。




□END□
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