最後の恋―番外編―
私がはいたら絶対に転びそうなほどの、ヒールの高いパンプスを揃えて、部屋の中へと入っていく。
明らかに今まで掃除機をかけていたと言わんばかりの状態を見て、彼女は納得したようにひとつ頷いた。 そして私へと視線をよこす。
「あなた、学が雇った家政婦? あなたの雇い主はいつ帰るか聞いてる?」
いつも学が座る黒い一人掛けのソファに、当たり前のように座ったその女の人。
長い脚を綺麗に組んで、その膝に肘を乗せて頬杖をついている姿は、モデルのようだ。
それを立ったまま呆然と見つめる私は、本当に家政婦か何かになったかのような感覚に陥った。
「え、えっと、今長期の出張中で……」
「そう、じゃあ掃除続けてくれていいわよ」
私の言葉を最後まで聞かずに掃除を促してくる美女に、“自分が学の彼女だ”とどうして言えないんだろう。
そして、なぜ私は言われるがままに掃除機をかけ始めているんだろうか。
確かに掃除をするためにこの家に来たんだけど。むしろ予定通りなんだけど。
ゴーゴーと騒音をかき鳴らす掃除機を引き連れて、キッチンの床を掃除しながら自分の不甲斐なさに涙があふれてきた。
この人は、学の歴代の彼女の誰かなのだろうか。
この部屋で、学のソファに当たり前のように座れるくらい、親しい仲だったんだろうか。
今の学の彼女は私なのに。