最後の恋―番外編―

学が言ってくれた言葉たちを疑うつもりなんて毛頭なくて。学が今、私以外に付き合っている人がいるだなんて、疑う気持ちは一切ないのに。

どうして私はこの人に、”家政婦なんかじゃなくて彼女です”って言えないんだろう。

ここで私が名乗れないのは、コンプレックスがどうこう、というよりも、学の元カノと張り合いたくない、別れた人と同じところに立ちたくないという、変な意地なのかもしれない。

この人は、学の彼女だったのかもしれない。
でも、カードキーはもう持っていないのだ。この部屋に学の許可なしに入る権利を持っていない。
学のプライベートに無断で入ることはもう、許されていない存在なのだ。


それでも、どうしようもない嫉妬心からボロボロとこぼれる涙を、ごしごしと乱暴に袖でぬぐって、掃除を続ける。
どっちにしろ志保さんももうすぐ来るだろう。
きっとそれだけ親密だった元カノなら、志保さんとも面識があるはずだ。


あらかた掃除機をかけ終わって、元の場所に戻す。
そして、お客様用のカップにインスタントコーヒーを作って、女の人の前に置いた。


こんなことをしていると、なんだか本当に家政婦になったみたい。
でも、お客様をもてなすのは当然のことだから。この部屋は私の部屋でもあるって思ってるから、私がもてなすのは当たり前だ。
決して家政婦発言を受け入れたわけじゃない。


「もうすぐ学さんのお母さんがお見えになりますので、何か緊急のお話がおありでしたらその時にお伝えしてください」

仕事で培った愛想のよさを総動員して、ぺこりとお辞儀をしながら一気に言い切る。そして、持ってきた字部員のバッグを抱えて、一目散に玄関を飛び出した。

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