最後の恋―番外編―
敵前逃亡したみたいだけれど、そう思われたとしても元カノとは絶対に関わりたくない。元カノのことに私は関係ないし、そういうことは学一人ではっきりとけじめをつけてもらいたい。
それでも、ちょっぴりむかつくから。もし今日学から電話がかかってきても、無視してやろうと決めてエレベーターが来るのを待つ。
そしてあいた扉からタイミングよく、というか悪くと言うか、志保さんが降りてきた。
「あら、美月ちゃん帰るの?」
「はい。学さんにお客様みたいで……」
私の言葉に何故かピクリと反応した志保さんは、にこやかな笑顔から一変して、何やら不穏な雰囲気を纏った。
それを少しだけ怖く感じながらも、「なので帰ります」と笑って言えば、今までとは違う絶対零度の笑顔で「女のお客様なのね?」とズバリ言い当てた。
「……はい、たぶん学さんの前の彼女だと思います」
その志保さんの勘の良さに、内心舌を巻きながらも肯定する。すると、志保さんは私の手をぎゅっと握りしめて言った。
「逃げるの?」
その一言だけで、志保さんが言わんとすることが痛いほどわかる。過去の彼女と戦わないでしっぽを巻いて逃げるのか、と言いたいんだ。
でも、私の考えは志保さんとは違う。
「逃げるんじゃありません。私は学さんの私への想いを少しも疑っていませんし、あの女の人とよりを戻すんじゃないか、だなんて全く思ってないんです」
「ならどうして……」
「彼女がここに来たってことは、学さんが彼女と未練を残すような別れ方をしたって言ですよね。だったら、それは私じゃなくて、学さんと彼女の問題だと思うんです」