最後の恋―番外編―
『そうだな、うん。俺も美月にいい加減会いたいから、ちょーっと強硬手段に出ようかな』
「強硬手段?」
『うん、今の商談相手が最後の詰めの変なとこ渋ってるから、なかなか帰れないんだ。でも、美月にそんなかわいいお願いされたら、早く帰らないわけにはいかないからね。木曜には帰るよ』
木曜って、あともう三日後だ。
そんな『帰る』って言いきっちゃっていいの? っていうか勝手に決めて帰れるものなの?
学の急な“帰る宣言”に呆気にとられる私に代わって、とうとう我慢できないとばかりにふき出したのは、もちろんそばで学の言葉を一語一句聞き逃すまいと聞き耳を立てていた三人だ。こんなに近くで笑ってしまったものだから、当然その笑い声は学にも聞こえてしまった。
『……だれかいる?』
疑問形だけど確信しているその問いに、私が答えるより先に、手の中の携帯は茜さんに取り上げられてしまった。
「もしもーし? 美人で素敵なお姉様ですよー」
茜さんが電話に出ると、何か言ったらしい学に笑いながら「ごめんごめん」と軽い調子で謝っている。