最後の恋―番外編―
大学の入学式。
サイズはピッタリなはずの、買ったばかりのスーツがまぜか窮屈に思えるくらい緊張していた。
「一緒についていこうか?」と言ってくれたお母さんの言葉を、素直に受け入れておけばよかったかもしれない。
今更公開するけれど、お母さんは今日仕事が入っていると分かっていたし、何よりその場に妹の美月がいた。だから大人ぶって、『平気よ』なんて言ってしまったものを、今更取り消すことができるわけもない。
私は小さく深呼吸をひとつして、何とか心を落ち着かせようとした。
美月は、何故か私を“完璧な人”として見てくれる。
けれど、実際はそうじゃない。
本当は、美月の自慢のお姉ちゃんでいるために、美月にそう思ってもらえるように、人知れず努力をしていたりするんだけど。
やっぱりこういう風に一人でいたりすると、その仮面は外れかけてしまう。
でも日頃の努力の甲斐あって、第一志望の、しかも誰でも知っているような有名大学に入学できたのは僥倖だった。
だからといって、知っている人が誰一人いないこの状況は、とても居心地がいいとは言えないんだけれど。