最後の恋―番外編―


「まさか、自分で気づいてなかったわけ?」

「今、言われて自覚したっぽいです」


正直に告げると、「鈍感」と馬鹿にされた。でも反論できない。
確かに鈍すぎる。

いつから私、誠人君のこと好きだったんだろう。
どうして好きになったんだろう。

思い当たる節がないのに、それでも鼓動が確かな恋心を主張している。


「好き、……そうか。私、誠人君のこと、好き、なんだ」


じわじわと実感して、感動しているところに、「あれだけ酷いこと初対面で言われて好きなるなんて、マゾか?」と学が茶化してくる。
でも、そんなからかいの言葉より、自分が恋をしていることが嬉しくて仕方がない。
私が唯一今までできなかったことは、“恋”だったから。


周りが思い描く理想の女の子になることに必死で、恋なんてできなかった。

本当は私だって、休みの日はごろごろしたり、我慢しないでわがままを言いたくなる時だってある。
それでも、周りの期待に応えなくちゃ、という思いの方が上回って、本当の自分を出せなかった私は、恋なんて、する余裕も気持ちもなかった。

だから、自分でも気づかないうちに恋をしていたことが嬉しくて、嬉しくて。
この気持ちを大事にしたいと思った。

もしかしたら、初めて抱きしめられたあの瞬間から、誠人君のことが気になっていたのかもしれない。
だからあの時の感触が忘れられないでいたのかもしれない。

美月は私を羨ましがるけれど、本当は私だって美月が羨ましかった。

いつも楽しそうに恋をして、時には恋に傷ついて泣いて、それでもまた恋をする美月。
そんなあなたが羨ましくて仕方なかったんだよって言ったら、美月はどんな顔をするだろうか。




□END□
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