最後の恋―番外編―
“完璧な人間もいるんだな”
それが春陽を入学式で遠目から初めて見たときの第一印象だった。
入学式でやたらと注目を浴びていたにもかかわらず、にっこり微笑みを浮かべて、でも近寄らせない雰囲気を纏って。まるでモーセのように、言葉一つで人垣を分けてしまったという、信じられない噂が飛び交うくらい、人の意識を無意識に集めてしまうやつだった。
学に紹介されてからかいまじりにつついてみれば、静かに怒りを漂わせて言い返すその様子に一気に親しみを覚えた。
とても学に似ていると思ったのだ。
付き合いの年数が増えていくごとに、意外とぽやぽやというか、抜けているというか、思わず“どこが完璧だって?”と眉根を寄せたくなるような人物であることがだんだんと分かってきて。
本人が陰ながら努力をしていることも知っているし、実は結構負けず嫌いだってことも知っている。
もちろん生まれつき備わった理解力の速さや判断力決断力は飛びぬけているけれど。
それでも仕事じゃない気の抜けたときの春陽は、ふいに無防備になることが多々あるのだ。
……今日はその中でも一番の無防備さかもしれない。