教師Aの授業記録
「…てめぇ、よくもぬけぬけと…」
田中の肩が微かに震えている。
「第一、パスポートなんて見せる必要なかったろっ」
すると教師Aは妙な輝きオーラを放ちながら答えた。
「…ふっ。こればかりは臨場感のある演出がしたかったんだよ。
来たるべき未来に備えての予行演習といったところかな…」
「…んな未来こねーよ」
薄ら目で田中は言った。
「おい、お前もなんか言ってやれ」
隣でボーっと立っているだけの山下絵里をこづいて促してみた。
「…お前、この話が始まって以来たった二言しか喋ってねーだろ」
すると彼女は眼鏡のつるを指でつまみ押し上げ、やっぱり動かない。
と思ったら教師Aの方を見て一言喋った。
「――本番時には、この私めに作戦指揮をお任せ頂けますか」
「……勿論だとも」
教師Aは大きく頷いた。
その表情は何だか並々ならず明るく、嬉しそうで…。
「…………」
「…………」
そして、あとはもう目と目だけで語り合う二人。
田中はすでに二人の電波の届かない場所に居た。
新たなる悟りの境地を拓きながら、やっぱりこいつら宇宙人だろ、と信じつつあった。