教師Aの授業記録
ちょっと休憩
その日の放課後も、その教室の扉は開いた。
「おいーっす」
田中はダレ気味の声を室内へと投げかけた。
返事はない。
「まだ誰も来てないか」と呟きながら、いつもの席へと座る。
「…今日は休みですよ」
横から突然に声がした。
田中は椅子から飛び上がるほどに驚いた。
ビックリ眼のまま隣を見ると、山下絵里が何食わぬ顔をしてそこに座っていた。
「……お、お、お前っ。
いつも存在感が薄いのはいいが、気配無しに居るのはやめてくれ!」
「失礼ですね。
私は寡黙キャラですから、存在感が薄いのも気配が無いのも仕様です」
すちゃりと、指で眼鏡のブリッジを押し上げて答える。
「……そ、それより、休みってどういうことだ?」
田中は未だバクバク跳ねている胸を押さえて訊く。
すると山下は懐からサッと細長いものを取り出した。
「廊下を歩いていると、これがどこかから飛んできました」
その指に挟んでいるのは、どこからどう見ても矢。
矢柄には紙が括りつけられている。
「……矢文?!」
「――イエース」
山下は手紙を指に挟んだまま真顔で、なぜか英語で答えた。