教師Aの授業記録
「……っ」
彼は短く息を呑んだ。
その電撃のような驚嘆が声になることはなかった。
何度か口を開け閉めして、ようやく引き攣れた喉から必死に声を出す。
「……お、お前ッ」
何かを言おうとして、何も言葉にならない。
そんな田中に対し、山下絵里はその落ち着きはらった表情を一変させた。
一体どうしてしまったのか一瞬にしてまるっきり人が変わったような変わりようだった。
「…*#&%@+=$¥#%<~!!!!」
白目を剥きムンクの叫びのような顔で何事かを喚き出した。
それは万人に対し恐怖を植え付けるような形相だった。
そのあまりの異様さに田中は本能的に慄き、思わず後ずさっていた。
血の気の引いた顔で本気で距離をとっていた。
しかしその次の瞬間には彼女の表情はすっかり元のものへと戻っていた。
まるで何事もなかったかのように落ち着きはらい、ズレた眼鏡を指で押し上げる。
そして淡々とこう言った。
「”そうです。私は何もかも知っています”――をチェンバル語で言ってみただけです。
もしもこれより先のページからここに戻って来てしまったのなら、私の真似をしてから83ページへ戻らなければいけません」