教師Aの授業記録


「まずあなたが教師Aと初めて出逢ったあの日、あなたは”補習の為”にあの教室へやって来たと言ってましたね」

「…そーだよ」

田中は少し警戒するような硬い表情で頷いた。

「でも、本当にそれだけが目的でしたか?」

訳知り顔で問う彼女に、田中の表情は自然と険しくなる。

「…どーいうことだ?」

すると、山下絵里の取り巻く空気がざわりと蠢いたように変質した…ように見えた。

「たとえば補習の連絡の書かれた紙の裏に、何か書かれていたりしませんでしたか?」

思わぬその質問に、

「……なっ」

と反射的に驚きかけて、田中は慌ててその声を呑みこむ。


しかし時は既に遅かった。

彼女は今まで見せたことのない表情で黒く微笑んでいる。


「思ったことが面白いほどに顔に表れますね…。
あなたはそれほどひねくれた顔をしていながら、そこらの一般的高校生よりよほど心根が真っすぐな人のようです」

「…おい、何勝手言ってんだ」

褒めているのか貶(けな)しているのか分からない発言に彼のこめかみが細かく痙攣する。



「…ふふ。
たとえばあなたの受け取った紙の裏にはこう書かれていた筈です。

”――コノ学園ノ理事長ノ身柄ハ私ガ預カッタ”と」

< 35 / 94 >

この作品をシェア

pagetop