教師Aの授業記録


田中は僅かにギクリと肩を跳ねあがらせた。

しかしその動揺を悟られまいと、必死に顔を背けた。


「…はっ。…ば、馬鹿馬鹿しい。
ってか馬鹿なんじぇねーの?てめぇ。
よくそんなたくましい想像が出来るな」

「想像じゃありません。事実を述べているまでです」

彼女はあくまで淡々としている。


「…んな事実があり得るかよ。

誘拐?
犯行声明文?
んな大がかりなことが起きてりゃとっくに朝の新聞の一面を飾ってるっつーの」


まくし立てるように田中は言い放った。

動揺しまくりの彼に対し、山下絵里は余裕の相好を崩さない。


「確かにあの時のあなたはそうやって疑って掛かったのでしょうね。
机の上に置いてあっただけの紙なんて誰にだって悪戯書き出来ただろうし。

…そうは言っても内容が内容だけに気に掛かったあなたは、仕方なく普段ならサボるであろう補習に顔を出すことにした」


山下絵里は探偵のようにこめかみに指を当てるしぐさをしながら、自信たっぷりの推論を広げて見せる。


「しかしそこであなたが目にしたのはいかにも”怪しい”を絵に描いたような見ず知らずの教師。
しかも逢って早々にいきなり挑発してきたので、あなたとしても平静で居られなくなった…」


そう言って、こめかみに当てていた指をつつーっと動かし唇をなぞる。


「だからあなたは教師Aに向かって、ついカッとなってこう食って掛かった。

『何たくらんでんだ、テメェ!』――ってね」

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