教師Aの授業記録


田中はもはや反駁することも忘れて言葉を失っていた。

ほとんど山下絵里の独壇場になりつつある。


「ですが、あなたはそう言った後に教師Aに直接問いただすことは出来なかった。

…なぜなら、あの時あの場には私という存在が居たから」


自分の胸の上に手を置きながら告げる。


「あなたの受け取った、”学園の理事長の身柄を預かった”という一文の後にはこう続いていた筈です。

”尚、学園関係者ニコノ内容ヲバラシタリ、警察ニ通報スルコトハ許サナイ。
ソノ場合ハ、オマエノ父デアル理事長ノ命ハ無イト思エ。
ワタシハイツダッテオマエノ行動ヲ監視シテイル。

ダガ心配スルナ。
理事長ノ不在ニヨリ学園ノ運営ハ滞ルコトハナイ。
オマエガヘタナ動キサエ見セナケレバ、何事モ平穏無事ニ過ギテイクコトダロウ”――と。

つまり、この声明文が本物であった場合、この内容を学園内の誰かに知られるわけにはいかなかった。
それは学園の生徒である私にも当てはまった…。
だからあなたはあの時、私の居る前で教師Aに真意を訊くことが出来なかったのです」


全てを見透かす彼女の目がすっと細まる。


「さらにそれは、教師Aが実は本当に学園関係者だとした場合にもあてはまる。
だから、同様の理由で、一対一としても教師Aに真実を問いただすことが出来なかった。

よって、あなたは受け取った声明文のことを誰にも打ち明けないまま、最も怪しそうな教師Aの動向を密かに探り続けることしか出来なかったのです」

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