教師Aの授業記録
「……はぁ?」
思いっきり眉根を寄せた田中が、思いっきり語尾を上げて訊き返した。
しかしそんな田中の反応を無視し、山下は仕様の乏しい表情ながらもどこか愉快そうに知りえることを語り出す。
「――あなたのお父様は最近のあなたのことをとても心配してらしたようですよ。
たとえばあなたが、三日に一度は学校をサボったり、行ったとしてもすぐに早退したり、部活にはどこも入らず、授業はほとんど居眠り、試験中にはテスト問題を解かず、白紙の答案用紙で紙飛行機を作って窓から飛ばし、あと、寒い冬には教科書を燃やして焼き芋を作ろうとしたこともあったようですね」
「…最後の方、やたら詳しい情報だな」
呆れ半分に言う田中に、山下は得意そうに頷く。
「全てあなたのお父様が教えてくれました。
不真面目極まりないあなたの態度を憂い、心配で、よく家でも声を掛けてみたそうですが、そのたびにあなたとは激しく衝突してしまい、家庭内はいつも殺伐としていると嘆いておられました」
「……はん。何が心配だ。
大体いつも向こうの方が”バカ息子”や”単細胞”や”アメーバ”や”ゾウリムシ”や”クロレラ”とか罵ってくるくせに」
「なるほど、単細胞攻めですか。お父様もなかなか…。…少しあなたに同情しそうになりました」
そう言って山下は慌てて口元を手で押さえる。
「おい。何必死で笑いをこらえてんだ」
「……失礼。
くしゃみが出そうになっただけです」
そう答え、手を元に戻し、何食わぬ様子できりっと居ずまいを正す。
「…それはそうと、お父様はご自身の立場が知らないうちにあなたに見えない負担をかけているのではないかと心配しておられましたよ」