教師Aの授業記録
「……んなワケねーだろが」
田中はつんと顎を上へ突き上げ、そっぽを向く。
「…あなたって人は本当に素直じゃありませんね」
その声はいつも通り冷めていながら、ふわりとした優しい響きがあった。
「お前、俺を馬鹿にして…」
田中がムッとしたように言いかけ、最後まで続かなかった。
なぜなら背中越しに温かな感触を感じ、そのうえ腰回りがギュムッと締めつけられるような感じがしたからだ。
そしてその正体を知ってますます動けなくなった。
山下絵里が、背を向けていた田中に後ろから抱きつくような形で腰に手を回して来ていた。
途端に、それを知った田中の顔は一気に紅潮し、しかしながら頬を強張らせているという奇妙な表情になった。
「……てめっ、何してんだ…」
口調ばかりは怒っているふうだが、語尾が完全によわよわしい。
「…何って、見ての通りです。
素直になれないあなたが可愛くて、急にムラムラ~となって、ギュッとしてあげたくなっただけです。
自分の欲望に従ったまでなので、あなたは気にしないでください」
山下は自分のやっていることさえ客観的に見ているように、淡々と話す。
「…お前は気にしなくても、俺は気にするんだよっ」
真っ赤な田中がヤケになって返す。
しかし山下はその体勢を解こうとせず、それどころかさらに体を擦り寄せ、密着度を高めようとしていた。
「強がらなくていいんですよ。私は弱いあなただって受け入れます。
ツンが美味しければ、デレはその倍美味しいものです。
…本当はお父様のこと、誰にも打ち開けられず、独りで抱え込んで、どうしようもできずに心配で、ずっと辛かったんでしょう?」