教師Aの授業記録
背中越しに響いてくるその声に、彼の身体が一度ピクリと震えた。
しかしそれを隠すように平静を装う。
「…だ、誰があのクソ親父の心配なんかっ…」
「…まぁ、素直じゃない。心配で心配で夜も眠れなかったくせに」
「んなワケねーだろっ」
「目の下に濃い隈が出てますよ」
「こ、これはゲームのやり過ぎで…」
「よくよく見れば泣き腫らした跡もありますね」
「いいい加減なこと言うなよ!」
ひっつきながらワーワー言い合う二人の後ろから、ヌッと接近する一つの人影があった。
「――おーおー。
ちゃんと毎日サボらず学校に来ていると聞いて見に来てみれば、一丁前に色気づいてんじゃないか。クソ息子よ」
いきなり割って入ってきた声に、二人はピタリと言い合いを止めた。
そして、山下絵里は抱きついていた腕を解き、田中は慌てて彼女から距離をとる。
二人の振り返り見た先には、一人の大柄な中年男性が立っていた。