教師Aの授業記録
唐突に現れたその人物は、見た者を気圧すほどにとにかく大きな人物であった。
恰幅が良いというのもあるが、全身から滲み出るオーラというか風格がその身体をより大きく見せているようだった。
大柄な体格にピッタリと合った上等なスーツが身体の一部であるかのように自然に似合っていた。
「……お、親父…」
田中はその姿を目にした途端から、体を硬直させていた。
驚いているというより、明らかに状況が呑みこめていない様子。
「――しかし、あれほど学校嫌いで不登校気味だったお前がこんなにも真面目に毎日休まず学校に通う日が来るとは…。
私は今、感動で前が見えないぐらいだ。はっはっはっ」
豪快に笑いながら、目頭をハンカチで押さえるふりをする。
そんな見るからに楽しそうな様子の父親とは対照的に、息子は唖然と凍りついて、ほとんど石化しかかっていた。
「…本当にそうですよ。
ついさっきも”――ボク、お父さんが居ないと生きていけない”って私に泣きついてきて。
あまりのファザコンぶりが可愛くてヨシヨシしてあげてたところだったんですよ」
「……そうか。
これからも息子を頼むな」
目の前で好き勝手に繰り広げられる二人の会話に、掛かりかけていた石化が一気に解け、田中は我を取り戻して叫んだ。
「こらッ!事実を360度捻じ曲げてじゃねぇ!」
「360度したら一回転して元通りですよ。馬鹿ですね。
つまり私の言ったことを事実だと認めたことになります」
「…こ、細かい揚げ足とるなっ」
「そうなんだよ。馬鹿なんだよ。こいつは未だ分度器も使えんのだよ」
「使えるわ!
――ってか、急にこんなところで出てきやがって今までどこに居たんだよ!バカ親父!」
脱線しかかっていた話を、田中が無理やり元へと押し戻した。