教師Aの授業記録
「…ドッキリ?!」
田中の声が酷く裏返った。
そして理事長が頷くより先に、山下が首肯した。
「はい。すべて嘘だったんです。
補習の連絡の裏に書いた文章も実は私が書いたものです。
理事長があなたの前に姿を現さないということ以外、全ては日常通り進んでたんです」
「…その通り。
私がこの山下君の兄さんに『学校を占拠して一体何がやりたいんだね?』と訊ねてみたところ『教師をやりたい』と言い出して、ちょうど良いと思ったんだ」
腕組みをし、息子を見下ろすように、じっと見据えて語る。
「…私は敢えて彼の願望に沿って、放課後に教室を貸し、お前をそこへ連れ込むことで、お前がちゃんと毎日学校へ行くきっかけにならないものかと考えたんだ。
私のことを本気で心配するならお前はそこへ行くだろう。
行かないなら行かないで、それまでだ。
そのうえ、もういい加減、私は親子の関係がなし崩しに壊れていくのに我慢できなくなっていた。
悪いが壊れるなら壊れてもいい覚悟で、お前の心を試させて貰ったんだ」
「…………」
茫然と言葉を失くす田中の隣で、山下絵里は相変わらず抑揚に乏しい口調で理事長に話しかける。
「でもその心配は無用だと証明されましたね。お父様。
彼は本気でお父様のことを心配し、本気で兄のことを怪しんで見てたようでしたから。
だって、あんな意味不明な補習を毎日クソ真面目に受けに来てたんですよ。うぷぷぷ…」
「…お前はいつも黙って見てそんなことを思ってやがったのか」
口を押さえてほとんど無表情に笑う山下絵里に、田中は頬を引き攣らせる。
「…ふむ。私も実を言うと、こんなに上手く引っ掛かってくれるとは思っていなかった。
まさかあの紙と私の不在だけで、私が連れ去られたと鵜呑みにするとはな。…さすがは我がバカ息子だ」
理事長は「うんうん」と、呆れるような感心するようなどっちともつかない様子で首肯していた。