教師Aの授業記録
「まぁ、鵜呑みにしてくれたお陰で、馬鹿正直に誰にも言わずにいてくれたようだし。警察沙汰にもならず、万事上手くいった」
「まったくその通りですよ、お父様。
危ない綱渡りでしたが賭けてみて良かったですね」
そんな満足そうな二人とは真逆に、その傍で一人がプルプルと肩を震わせていた。
「うむ。周囲にこのことがバレたらバレたらで私の権力でもってして事実を揉み消せばいいと思っていた」
「…まぁ。警察沙汰になったとしても無かったことに出来るだなんて、何て素敵な権力」
目をキラキラとさせる山下絵里に、理事長はご満悦な様子で笑う。
「ふふっ。本物の悪役のようだろ」
「そうですね!きっとお父様なら、とってもお似合いになります」
その盛りあがる隣で、傍らの肩の震えはしだいに小刻みになっていき、やがてそれも臨界に達したのだった。
「――い、いい加減にしろよッ!!!」
二人の楽しげな雰囲気を、田中の怒号が切り裂いた。
「何がドッキリだ!何が”万事上手くいった”だ!」
その見たことのない田中の剣幕に、さしものマイペース二人組も静かになった。
「――いらん心配掛けさせやがって…。
こんない大がかりでまどろっこしいことするぐらいなら、言いたいことは面と向かって俺に言えばいいだろ!」
当たり散らすように叫ぶ声は少しばかり苦しげで、感情の昂ぶりに震えていた。
山下絵里はほとんど表情を変えないまま、冷静に事のなりゆきを見守っていた。
しかしその隣で、すっかり口を閉じていた理事長が、息子の前へ一歩踏み出し、近づいた。
そして、何をするかと思いきや……、
「……悪かった」
と、いきなり低く静かに謝った。
田中は意表を突かれたように立ち尽くした。