教師Aの授業記録
「確かにお前の言うように、言いたいことは面と向かって言えば良かった。
しかし面と向かえばいつも、心に無い言葉ばかり口について出てしまう。
心配な気持ちとは裏腹の言葉で罵ってしまう。
情けないことに私はどうすればいいのか分からなくなっていた…」
「………親父…」
聞いたことの無かった父の本音を聞かされ、田中は戸惑い気味の表情を浮かべた。
「思えば、私はお前の前ではいつも偉そうに言って、虚勢を張ってばかりで、その実、父親としての自信が無かった。
なぜなら、私は今まで家庭より仕事ばかりを優先してきたから…。
お前の小さい頃も一緒に遊んでやったことはほとんど無かったし、ろくに世話を焼いてやらないなままお前ももう大きくなって、気付けば高校生だ。
そして、お前はまず選ばないだろうと思っていた私の勤める高校を選んだ――」
その言葉に田中は渋い顔を見せた。
「…そこしか無かったんだよ。学力からして」
しかし、学園理事長は薄らと笑っていた。
「だが私は正直、嬉しかったんだよ。
まだ避けられるほどに嫌われてはいないのだと思ってほっとした…。
…でも入学してしばらく経ち、お前は学校をサボりがちになった。
それを知って、やはり学園での私の立場が息子であるお前に見えない負担を掛けているのではないかと思うようになった」