教師Aの授業記録
そう言って、彼は僅かに肩を落とした。
大柄な体が少し小さくなったように見えた。
「……勝手なこと言ってんじゃねーよ」
田中は強い口調で父親の言葉に反論した。
だが、まともに相手を見ることなく、斜め下の床を見ながら、眉間に力を込めるように皺を寄せた。
「…確かに『理事長の息子のくせに』とか『息子だから』とか言うやかましい連中は居たが、そのことで親父のことを疎ましく思ったことは一度も無ぇよ」
そして長々と息を吐いた。
「…大体、今更なんだよ。
いちいち心配されるような歳じゃないし。
別に今更、父親らしく構ってくれなくて全然結構だし。ウザいだけだし。
親父は親父らしくキリキリ真面目に働いてくれりゃそれでいいんだよ。
…第一、親父が働いてくれねーと、俺が学校に行けねーだろ」
最後の一言に、父親は思いがけず目を見張った。
「つまりこれからは真面目に学校へ通うつもり…と言うことなのか?」
田中はまだ父の方を向かずに、少々声を荒げて答えた。
「そうだよ。高校ぐらいちゃんと卒業しておかねーと就職に困るだろ」
言って、口をへの字に曲げる。
隣で山下絵里がくすりと笑みを漏らした。
「…すべて、狙い通り…ですかね」