教師Aの授業記録
そんな小さな呟きすら耳に届いてない様子で、田中父は一人、感激モードに入っていた。
「おぉぉ…」
長い感嘆を漏らし、そっと目元を拭うふりをする。
「お前はお前でちゃんと考えてたんだなっ。
何も考えてない馬鹿息子だとばかり思ってたが見直したぞ!アミラーゼ」
妙な方向へと上がり過ぎたテンションで妙な言葉を口走る父親を、息子は半眼で睨んだ。
「……せっかく話がイイ方向へ流れかけていたのに、それをぶち壊すようなこと言ってんじゃねーよ」
噛み合った息で言い合う親子を視界の端で入れながら、山下絵里は眼鏡のつるを摘まんで押し上げる。
その顔に薄く笑みを浮かべたまま。
「良かったですね。単細胞生物から消化酵素へ格上げですよ」
「……お前も俺を馬鹿にしてんだろ」
ヒクッと田中のこめかみが震える。
その時、田中父はハタと何かを思い出したように腕時計を見た。
「おーっと。もうこんな時間か」