教師Aの授業記録
そして数分後に戻って来た田中が手にしていたのは、お汁粉とコーラ。
「……どっちがいい?」
「……お汁粉です」
山下絵里は希望のお汁粉を受け取りながら、不思議そうに田中を見た。
「よく私の好きなものが分かりましたね」
「だって、前にそれ飲んでるのを見たことあったから…」
山下は缶を握りしめ、それを見つめながら呟く。
「私のこと、ちゃんと見てくれてるんですね」
「そりゃそれなりに見てるよ。…言っとくが、変な意味じゃねーからな」
誤解を受けまいと、先に釘を刺しておく田中。
しかし彼女にとってはそんなことお構いなしの様子だった。
「私のこと、気になりますか」
「……変な意味じゃねーって言ってんだろ」
うんざりと返す田中。
山下絵里は両手で缶を包みながら、下を向いた。
「……私のこと……気にしてくれますか……」
まるで泣き声のような声だった。
田中は思わず持っていたコーラを取り落としそうになってこらえた。
プシュッと開けたプルトップから中身が僅かに零れる。
「……お、おい。どーした」
慌てた様子で相手を見た。
すると彼女は顔を上げ、田中の方を見上げていた。
その目は薄らと潤み、助けを求めるように頼りなげだった。
そして彼女は再度同じ言葉を重ねた。
「……私のこと…ちゃんと…気にしてくれますか……」