教師Aの授業記録
田中は唖然とした。
どう反応すればいいのか、どう返せばいいのか、とっさに分からなかった。
頭をガシガシと掻き、首筋をボリボリと掻き、耳の裏をガリガリと掻き、そして仰ぐように上の方を見上げ、視線をあちらどちらの方へ彷徨わせ、やっと躊躇いがちに口を開いた。
「…まぁ、それなりに気にしてる…」
おずおずと、決して山下絵里の方を見ようとせずに言った。
「特にあの宇宙人とゴタゴタあってからのお前は見るからに変で…ちょっとだけ心配だ」
たどたどしいその言葉を聞き、山下絵里はフッと泣き笑いのように頬を緩めた。
「……そうですか」
お汁粉の缶を静かに開ける。
「あなたって本当に見た目によらず優しいですね」
「だからお前はいつも一言余計だな…」
「嬉しいんですよ」
山下絵里はそう言って缶に口をつけた。
「美味しい」と言って微笑む。
「……あのですね」
「何だ?」
あらたまったように切り出した彼女は、ぎゅっと缶を握りしめる。
「話してもいいですか?」
「……おぅ。……何を?」
「兄と私のことについて…」
田中は少し驚いたように目を見開いた。
しかし、
「ああ。話せ。全部話しちまえ」
きっと胸の内に溜めこむよりその方がずっといいのだろう。
そう考えた田中は促すように言い、半分以上残っていたコーラを一気に飲み干した。
「……ゲッフ」
「ちょっと。いきなりこの空気を壊さないでくださいね」
そう言いながらもクスリと笑い、山下絵里は自分のことについ明かし始めたのだった。