教師Aの授業記録


「……兄さん」


山下絵里は潤んだ瞳を震わせて、やがてこらえきれなくなったように何度もその名を呼んだ。


「……兄さん、兄さんっ」


傍に駆け寄り、大切なその顔を見上げる。


「……私が誰だか分かる?」


すると教師A――もとい山下大地はゆったりと笑いかけた。


「…ははっ。絵里以外の誰だって言うんだ?」


当たり前だと言わんばかりに答えた。

その聞き慣れた口調に、彼女の唇がわななくように動く。


「……私達、…兄妹だよね…?」


震える声の問いかけに、山下兄は首を傾げた。


「もちろんじゃないか。
なんでそんなことを聞くんだ?

…今日の絵里は変だなぁ」


そして、また「はははっ」と目を細めて笑う。

懐かしさを覚えるほど久々に見た兄の姿に、山下絵里はすっかり感極まってしまった。


「……だってぇ…」


そこから先は声にならず「うぅー」と嗚咽を漏らした。

顔をぐしゃぐしゃにして、大好きな兄に抱きついた。

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