教師Aの授業記録
真剣な顔をして訊く絵里に対し、兄はやはり優しく微笑んでいた。
「……絵里が心配することは何もないんだよ」
「………でも」
「――俺には夢があるんだ」
絵里の言葉を遮り、大地は包み込むような眼差しで不安げな妹の顔を見下ろした。
「今はしがないフリーターだけど、絵里が無事に大学に進学できるまで頑張りたいんだ。
それが今の俺の夢でもある」
穏やかに、そして決然と告げるその頬に差しかかる光は赤みを増した。
照らす夕日のような温かな兄の言葉を、しかし絵里は呑みこむが出来なかった。
「……そんなっ。
兄さんにそこまでの負担を強いられないよ」
「――絵里」
優しくさとすような声で妹の名を呼ぶ。
「俺は俺のやりたいことをやってるだけだよ。
絵里が無事に進学できたら、それから、俺は自分のしたいことをやってみるつもり」
そう言って軽快に笑う大地の表情は実に晴れやかだった。
「――俺は絶対に二つとも夢を叶えてみせるさ。
こう見えて欲張りだからね」