教師Aの授業記録


「もちろんですよ。兄さんは努力の人ですから。
高校の勉強も独学でやってるんです」

少し自慢げに胸を張って言う絵里。

「そんな真面目一徹な奴がなぜ、金星人で物理教師になりきっていたのかね…」

「ああ。それは多分、兄さんの小さい頃の夢だったからではないでしょうか」

絵里は楽しそうに答えた。

「兄さんの小さい頃の夢は宇宙人と先生だったんです」

「……まるで幼稚園児と小学生の夢の共演だな」

田中は呆れた。

「――だから、兄さんがああなってしまっていたのは叶えられなかった夢を、心の奥底では望んでいたからじゃないかって思えて。
今まで我慢してた分、爆発しちゃったんじゃないかって思ったんです。

もしそうなら、たとえまやかしでも好きにやらせてあげたいって思って」

「それでお前は何も言わずに兄貴を見守っていたのか」

「ええ」

「じゃあ、途中で”総統”とかって呼んでたのも敢えて兄貴の為にノッてあげてたのか」

「ええ。私はあんなキャラじゃありませんし」

「念のために訊いておくと姉御キャラでもないよな?」

「ええ。私は断じてあんなキャラではありません」

田中はじっと山下絵里の方を見返した。

「――お前、兄貴の為に自分を捨てすぎだぞ」

「そうでしょうか。兄さんは私達の為に何でもしてくれてるからこれぐらいは別に…」

「そうやって我慢して、アレみたいにいきなりプッツンキレたりすんなよ」

「大丈夫です。我慢じゃなくて好きでやってるんですから」

山下絵里は何が楽しいのかずっと笑っていた。


田中はそれを横目に見ながらぽつりと呟く。

「お前、前よりちょっと雰囲気変わったな」

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