教師Aの授業記録

それに対し、山下絵里は「えっ」と首を傾げた。

「……そうですか?私は元々こうでしたよ」

「そうか?」

訊き返す田中に絵里はクスッと微笑む。

「田中君こそ最初会った頃と違う気がしますよ」

「俺はなんも変わってねーぞ」

「……ふふっ。そうですね。
あなたは何も変わってない」

すっとその眼が嬉しそうに細まる。

「でもあんなことがあったおかげで、私はあなたのことをより深く知ることが出来ちゃいました」

「…………」

田中はすぐ近くで山下絵里に見つめられて、どぎまぎした。

しかもあんまりに愛おしそうに見るから……平静でいられなくなる。


と思っていたら、今度は彼女の瞳がふいに寂しげに遠くなった。

「もう放課後に逢えないのはちょっぴり寂しいですね」

「……そ、そうか」

田中の声が裏返る。

「もっと田中君のことを色々知りたいです」

「……そ、そ、そうかー?
俺のことを知っても、しょーもないだけだぞ。
友達いねーし」

「だったら尚更知りたいです。
誰も知らない田中君を私だけが独り占めできます」

「……お、おい」

「むしろ友達いないのもモテないのも、私にとっては好都合です」

「……何気に酷くないか…」

「だから今日から毎日あなたと一緒に登下校することに決めました」

「……ええっ?!っておい、勝手に決めんなよ!」

「友達が居なくてモテないあなたにとっては何ら問題ない筈です」

「……問題ありまくりだ」

何か似たやり取りを以前にしたことあるなと頭の片隅で思いつつ(気になる人は5ページ参照)、田中は返す。

「っていうかこっちの意見も聞け」

「嫌です」

絵里は悪戯っぽく笑ってきっぱり言った。
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